たくさんでなくても 深い信頼関係で作品を届けたい

ー刺繍絵作家 宮崎友里ー


やっと見つけた、自分だけの表現


-刺繍で絵を描く、というのは珍しい手法ですよね。刺繍との出会いは何ですか?


宮崎さん もともと金沢の美大でグラフィックデザインを専攻していました。世界観を作るのが好きで、挿絵や絵本制作、映像制作に興味があったんです。就職活動をする中、そういった創作活動がしたいなら会社勤めで身を立てながら取り組んだ方がいいと言われ、美大を出て一旦就職したものの、創作活動との両立は厳しく1年でギブアップ。以後は東京に出て介護・営業・接客など色々なアルバイトをしました。でもある時仕事中に倒れてしまって、しばらく療養生活を余儀なくされました。その時に古布を使った小物作家をしている実家の母がハギレや糸などを送ってくれて、触り始めたら糸で刺繍をする感覚はペンや筆で絵を描くのと同じだと気づいたんです。何かを表現したい気持ちがありながらも、これだという手段がずっと分からずもがいていた中、やっと出会えたという感じ。そこから独学でステッチを学び、作品作りを始めました。

布地からふわりと浮き上がってくるような、不思議な感覚



-今はどんな作品を制作しているのですか?


宮崎さん メインは「パーソナルオーダーメイド」のタペストリーです。これは依頼者にいくつか質問をして、内面にあるものを感じ取り、形にするというものです。できあがったものを見せると「あの時の話がこうなったんだ!」と答え合わせみたいで面白いです。今後は巾着やポーチなど袋物も制作してオンライン販売ができればなと思っています。また、刺繍絵で絵本の制作もしてみたいです。

今後はバッグやポーチなどの小物も充実させていきたいとのこと



このアトリエとの出会いは、運命


-長野に移住したいきさつや、このアトリエとの出会いについて教えてください。


宮崎さん 刺繍絵を始めて少し経った2014年頃、夫の撮影の仕事で佐久に行ったことで長野に縁ができ、友人も増え、自然の中で暮らすのもいいなと思いました。移住する1年前、長野で古道具店そらしまを営む高島さんと知り合い、こちらに居を移して半年ほど経った頃に高島さんから新店KINU(現在、お隣同士となったアンティーク雑貨店)の話を聞き、空き家が建ち並ぶこの小路を案内してもらいました。人の生活圏の中にあるのに誰にも気付かれてなさそうな、幻みたいなところに惹かれ、即決。自分たちでリノベーションし、夫の写真スタジオ「一顆」と私のアトリエ「りり」にしました。長野に来てからは、「この先は出会うもの全てが運命だ!」と思って(笑)

アトリエに併設されたギャラリー



-本当に運命的ですね!これまで個展や空間演出、本の挿画に作品を提供されていますが、仕事をする上で大事にしていることはありますか?


宮崎さん 以前は比較的どんな仕事でも受けていましたが、今は自分が望む仕事だけ受けるようにしています。求められる以上のものを作ることが誠意だと思うから。前向きに取り組める仕事でないとそれができないんです。最初は選ぶのが怖かったけれど。たくさんでなくても、深い信頼関係ができる方がお互い幸せだと思います。もちろん、どんな要望にも答えることが喜びだという方もいますが。


-2018年に”Handmade Art : Explorations in Contemporary Craft”という洋書において、世界の現代クラフトアーティスト34人として掲載されるなど、ますます活躍されていますね。今後の創作も楽しみです。


りり

住所  長野県須坂市須坂186-2/TEL 090-2035-5970

OPEN  当面は予約のみ