人生の大事な場面に寄り添う 最高の印章を

須坂のすごい技術を持つ方を勝手に「Suzaka Meister」と命名。今回は数々の印章技術大会で最高位を獲得し、信州の名工にも認定されている土屋印店の土屋武志さん。




創業百二十五年の老舗印店


古来より本人を証明するツールとして権利と財産を守ってきた印章。1895(明治28)年創業の土屋印店は125年間、その大切な印章を作り続けてきた。六代目・土屋武志さんは何度も全国の印章技術大会で最高位に輝く印章職人だ。


土屋さんはもともと会計事務所で働いていたが、お父さんが体調を崩したのをきっかけに家業を継いだ。子どもの頃は特に家業を継ぐ意識はなかったが、物づくりは好きだったという。神奈川の職業訓練校で2年間、彫刻の道具制作から版下の作成、彫刻と、一通りの印章づくりを学び、卒業後も月に一度研究科で学んでいる。


※印章…はんこそのもの、本体 ※印鑑…はんこの押し型、印影

印章仕上り見本



手彫り印章ができるまで


印章の代表的な素材は木(土屋印店では柘を使用)、象牙、黒水牛、牛の角などがあるが、素材として最高なのは象牙。朱肉の吸着性が優れていて綺麗な印影が得られる上、彫り直しが可能なので形見としてもらっても活用できる。ただし現在象牙は輸出入が禁止されているため国内の在庫を使うしかなく、大変貴重だ。女優の故・川島なお美さんもご主人へのクリスマスプレゼントにこちらで象牙の印章を注文されたそう。


印材を選び、使用する書体を決めたら文字のバランスを手描きで書いてもらう。難しいバランスの字でも、細かく要望に応えてもらえるのが対面で相談できるメリットだ。文字のバランスが決まったら印材に版下を描き、彫っていく。よくこんな細い線を残して彫れるものだと感嘆してしまう。そして、彫る技術もすごいが、版下の文字の美しいこと!


彫刻刀は基本自作だが、手前の2本は須坂の刀鍛冶職人に作ってもらった 


印章の制作過程


フォントと見まごう美しさのゴム印版下



技術の探究に終わりはない


店内にはこれまでの大会で入賞した作品がずらりと並ぶ。印章もセットで展示してあり、精緻な彫刻の技術に驚くばかり。大会で受賞を重ねても、毎月学校に通い続けるのはなぜなのか?「大会に出るのも、学校で学ぶのも、毎回何かしらかの気付きがある。これでいい、は無いんです。大切な名前や社名を彫るものだから、常に最高のものを提供したいんです。」と話してくれた。今は安く早くできるはんこ屋さんが増え、手彫りの職人は減ってきているそうだが、印章は人生の大事な場面で使われる大切なもの。思いを込めて作られたものなら使う度に気が引き締まりそう。

店内では歴代の受賞作品を見ることができる



そんな謙虚で真摯に仕事に取組む土屋さんが最近気に入っているのは「須坂市動物園のツイッターの写真」。動物の表情や構図も良いし、何しろ綺麗!平成30年度の全国印章技術大競技会で特別賞・厚生労働大臣賞を受賞した虎の図柄を考える時も、須坂市動物園の虎の写真で毛並みなどを研究したそう。可愛い動物の写真も、美意識を働かせて見ているところが土屋さんらしい。

平成30年度全国印章技術大競技会で特別賞・厚生労働大臣賞を受賞した作品



モノなんて使えれば何でも良い、という価値観も確かにある。でも、丹精込めて作られたモノは使うたびに喜びをもたらし、人生を豊かにしてくれるような気がする。最高の職人の最高の一本をお探しの方は、ぜひ実物を見に足を運んでみてはいかがだろう。


土屋印店

住所  長野県須坂市上中町157

TEL   026-245-0607

OPEN  9:00〜19:00

定休日 日曜・祝日

HP   http://www.hankowa.jp/tcy.htm

※手彫り印章の納期は10日〜2週間となります。