アコーディオンで人を幸せにする梨園主は、縁談の神様

須坂市地域おこし協力隊 宮島麻悠子の『須坂おもしろ人物記』

須坂で活躍している方へのリレーインタビュー、今回は珍梨園の山上正建(やまかみまさたけ)さんです。

ー前回インタビューさせていただいたTEMOの小林さんから、梨農家兼アコーディオン奏者兼色々、と伺ったのですが、本業は梨農家さんになるのでしょうか?


山上さん:まあそういうことにしておきましょう(笑)


ー須坂で果樹栽培といえばりんごやぶどうが多いですが、どうして梨を栽培することになったのですか?


山上さん:それはね、神様のお告げだよ。うちは男の子が3人いて、長男のお嫁さんをひっぱるのにどうしたらいいかって考えていたら、ある時、夢で「梨を41種類作ってアコーディオンを聴かせたら嫁さんがくるよ」って神様が言ったんだ。それで、アメリカ・イギリス・フランス・韓国・中国・日本の色々な梨を41種、全部で273本植えて育てることにした。なんで273本かというと、-273℃っていうのは絶対零度で、原子の振動が止まる温度だから。今から14年前(2007年)、清掃センターに持ち込まれたアコーディオン3台を見つけて引き取ってから、しばらくは床の間に置きっぱなしだったんだけど、梨が実をつけるようになってからアコーディオンを聴かせるようになった。そうしたら梨がどんどん甘くなっていってね。そして梨を植えてから7〜8年経った頃、突然正装したお嬢さんが親御さんとうちに来て、「ぜひうちの娘を嫁にもらってくれ」って言ったんだよ。

<梨の木は日光がまんべんなく行き渡るよう、お椀型に剪定する>


ー日本昔ばなしみたいなエピソードですね!!アコーディオンを梨に聴かせるようになった頃、NHKを始め複数のテレビや新聞でも取り上げられていたそうですね。


山上さん:お嫁に来てくれたお嬢さんも、報道を見てうちを知ったみたいなんだな。


ー実は緻密な作戦勝ち!? そういえば山上さんは縁談の仲立ちもされているんですね。


山上さん:30〜40年前から縁談をやってきて、78組の縁談を成立させてきたよ。お袋から、自分が若いときに縁談を3つまとめておけば、自分の子どもの時は苦労しないって言われていたこともあって。車が普及していなかった時代は、今よりもっと農村にお嫁に来てもらうのに苦労していたからね。おかげさまで自分の子どもたちの縁談はすごくスムーズだった。


ーすごいですね。縁談の仲立ちで大事なことは何でしょう?


山上さん:親御さんやその娘・息子と信頼関係を築くことかな。息子や娘と会っていきなり縁談の話をすると、向こうも頑なに拒否したりするから、まずは縁談に関係ない話をして相手の興味関心を引き出し、心を開いてもらうんだな。マスコミの後押しや、日頃の社会貢献も信頼を得るのに一役買っているし、「信州山上流縁談道」を商標登録したのもそのため。ちなみに今いるこの部屋は「成立の間」の看板を掲げて縁談をまとめる場所として使わせていただいているんだよ。

<2018年に”縁談道”で商標登録された>

<市内飲食店の一室に設けられた”成立の間”>


いくら出会う場を用意してあげたとしても、背中を押してあげる人がいないと、縁談の成立は難しい。

時間も手間もかかるけど、こういうのは効率よく簡単に、とはいかない。でもそれだけ大変だったとしても、縁結びができないことは家の断絶を意味し、やがて国が滅びてしまう。国も行政も、もっと危機感を持った方がいいと思うよ。


ー結婚するかどうか、子どもを持つかどうかはあくまで個人の自由で、それらをしないことが不幸だと決めつけることはできませんが、世の中の若者がみんな結婚しなくて子どもを持たなかったら、極端な話人がいなくなってしまいますね。結婚したい人が環境のせいで諦めなくてすむ、選択肢を残してあげることが大事だと感じます。かつて「よりモテることが価値」みたいに思われていた時代がありましたが、どうでもいい人からいくらモテてもしょうがなくて、マッチングが大事だと思います。


山上さん:毎年県内25カ所の介護福祉施設を回ってアコーディオンの公演をしているんだけど、ついでに縁談でいい子がいないか探してる(笑)4年前(2017年)、木島平村で自分が世話した夫婦が結婚したんだけど、その時に村をあげて昔の「花嫁道中」をやったんだよ。花嫁の実家から、親戚代表、長持ち唄の歌い手、二棹の長持ち、花婿・花嫁、両親、親せきが行列をつくって、花嫁宅からの約400mを練り歩く、本物の花嫁道中。長持ちは村の中学生に持ってもらって、途中で村の人に餅の代わりにお菓子を配ってさ。あれは良かったな。臥竜公園でもぜひやりたいと思っているんだ。それを見て結婚っていいな、と思ってくれる人が増えてくれれば。


ーしかしながら、縁談の世話だったり、アコーディオンで県内の介護福祉施設を回ったり、社会貢献活動に努めていらっしゃいますが、その原動力は何でしょう?


山上さん:28歳の頃、事業がうまくいかなくて追い詰められ、もう人生終わりにしてしまおうかと思ったことがあった。で、自分を手にかけようとした時にはらはらと涙がこぼれてきて、このままじゃいけないと思ったんだ。それから仏門に入り、仏教を学んでからは、世のため・人のために尽くそうと決めた。善因善果(よい行いをしていれば、いずれよい結果に報われる)だな。人を幸せにしたら、自分にとって無限の喜びになる。

縁談の相談を受ける中で、人生に悩み行き詰まっている人と出会うことがあるが、「今まで育ててくれた人、関わってくれた全ての人に感謝を伝えられたら命を絶ってもいいよ。それは自分の親だけでなく、親を産んでくれたその両親、親類だけでなく、友人・先生、これまで生活するのに必要なインフラを提供してくれた業者さんやお店の人、その両親、全員だよ」と言う。名前も知らない人にもたくさん助けてもらって生かされてきたことに気づいたら、そう簡単に人生投げ出せないよ。

そうそう、東日本大震災の10日後くらいに、「銀座通り線開通まつり」で歩行者天国になっていたところに募金箱を持って、アコーディオンで「暁に祈る」という歌を演奏したら、たくさんの人が寄ってきて一緒に歌ってくれたんだ。手押し車を引いたお年寄りも、「本当は現地でお手伝いしたいけど、こんな事しかできなくて。。」と言いながら募金してくれた。みんな報道で現地の惨状を知っていたから、半日で数十万集まるくらいたくさん募金してくれたんだ。仲間が苦しい時に心を共有して助け合おうとするのは、日本人の素晴らしいところであり、根源なんだと思ったよ。


ーなるほど。ご自身の辛い経験が周りの人を幸せにする原動力になっているのですね。そして、他人を喜ばせるのが自身の無限の喜びになるというのも、大変共感するお話です。興味深いお話をありがとうございました!次の方を紹介していただけますか?


山上さん:篠塚久義さん。2つ下のいとこなんだけど、農家をしながら地域内がつながるための活動をしてる。大鹿村歌舞伎を須坂に呼ぶための「須坂発ッスル会」も一緒にやってるんだよ。


ーありがとうございます!というわけで次は篠塚久義さんに決定しました。次回もお楽しみに!


珍梨園

住所:長野県須坂市上八町671

電話:026-246-1540

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